ターゲット層の「欲求」を体験から読み解くメソッド 「DDC vol.6」を取材 – Sp!cemart News

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ターゲット層の「欲求」を体験から読み解くメソッド 「DDC vol.6」を取材

2019年5月29日(水)、イベント「DDC vol.6」が開催。「DDC(DELiGHTWORKS Developers Conference)」とは、ディライトワークスが主催するゲーム開発者向け技術勉強会です。第6回目では「お客様の『欲求』を探るワークショップ」というテーマで行われました。

 

登壇したのは、第5制作部ジェネラルマネージャーの東山朝日氏。1993年に株式会社ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に企画職として入社後、『エースコンバット』などのゲーム開発に携わってきた経験から、独自のメソッドを紹介。

 

▲ディライトワークス株式会社 第5制作部 ジェネラルマネージャー 東山朝日氏

 

 

お客様の「欲求」を探る

冒頭、アイスブレイクを兼ねて東山氏は参加者の年代を確認。続いて各自の「好きなもの」と「人気がある理由がわからないもの」を質問しました。ダーツ、映画、タピオカ……など、話題にあがるものは多種多様。

 

 

当然、年齢層、性別によって趣味嗜好は分かれます。さらには、年齢層と性別が一致しても全く同一にはなりません。これに対し東山氏は「人の嗜好や消費行動は、その人がこれまで行動してきたことの影響を強く受けている」という仮説を立てました。

 

提供する側の立場として「自分の好きなもの=お客様の好きなもの」が一致していれば良いですが、前述の通り様々な要素でズレが生じます。そのため、個人の価値観で「お客様像」をつくり、サービスや製品を決めてしまうのは非常にリスクが高いことになります。東山氏自身、年を追うごとに市場から感性がズレていってしまうことを危惧したそうです。

 

では、どうすれば「お客様像(=ターゲット層)」およびその「欲求」を具体的に探ることができるのでしょうか。

 

そこで、東山氏が提唱するのが「エクスペリエンス・マップ(Experience Map)」という手法です。これは、様々な体験を時系列・俯瞰視点で観察し、ターゲットの設定や製品開発に有用な仮説発見のヒントにすることを目的としています。

 

 

「エクスペリエンス・マップ」の作成手順

東山氏は「コツを掴めばあまり難しくありません」と前置きしつつ、その作成手順を説明。

 

①     年表の枠組み作成

 

②     各年代に起こった体験を調べ、ポストイットに転記

 

その年に何があったか、記憶から体験を抜きだし、インターネットなどを活用しながら正確に記入していきます。この作業は7~8名ほどのチームで行うと効果が高く、記憶の再認識に役立ちます。ポストイットを使用し、チームでその体験の感想を共有することがおすすめだそうです。

 

③     年表上にポストイットを貼る

 

④     年齢ゲージを設定する

 

各年代が何を体験して年を経たかが、確認していくうえで重要なポイントになります。1年単位で設置された年齢ゲージを上手く利用することが「エクスペリエンス・マップ」を読み取るコツです。

 

たとえば、2020年に30代男性をターゲットにするならば、過去40年に遡り、2020年にちょうど30代になる計算で埋めていくという感じです。

 

⑤     俯瞰して眺め、事実に着目しつつ仮説発見を行う

 

「エクスペリエンス・マップ」には明確に完成という形はありませんが、出来上がったものを俯瞰で観察し、事実に着目して仮説発見を行うところまでが一連の流れになります。

 

東山氏は、実際に作った「エクスペリエンス・マップ」を例にして説明。

 

世界的なコンテンツとなったとあるゲームシリーズの変遷を取り上げました。1996年に第1作が発売され、以降そのバリエーション違いやリメイク版の発売などが現在に至るまで続いている人気ゲームシリーズです。

 

仮に40代にフォーカスしたとき、作品の周期で考えると、オリジナルで触れたタイトルとリメイクされたタイトル、ハードが変わってパワーアップしたタイトルといった形で、ターゲットは平均3作ほどに触れている可能性があると示唆しました。またその子供にあたる幼稚園~小学生も、平均1.5作くらいの作品に触れていると推測できる事実が浮かんでいます。

 

ゲームコンテンツが発売されない年でも、ゲームを題材にした映画は毎年放映されるので、ターゲットは時がたっても親世代として自分の子供に見せる映画の選択肢として残り続けます。つまり、そのシリーズからは卒業しないつくりになっているという分析結果に。東山氏は「さすがは世界的な長寿命コンテンツ」と、再確認した事実を振り返りました。

 

また、東山氏が携わったゲームの企画時に利用したという「エクスペリエンス・マップ」も紹介。東山氏自身の年齢に合わせて作成された、いわば「東山氏のロボット年表」と呼べるものです。

 

この世代は幼少~高校生までの15年間ほどを、年に約4作品のロボットアニメに触れ続けて育ったため、ロボットに対して愛着のある世代になったのだと分析できます。そして、ロボットと言ってもリアル志向な作品やキャラクターの内面に踏み込んだ作品など、見てきたものによっても捉え方が変わってくると語りました。

 

次に「汎用エクスペリエンス・マップ」を紹介。世の中にあるあらゆる出来事を集めて、役立ちそうなものを次々と貼り付けていきます。

 

▲「今年の漢字」など、あらゆる方面から集められています

 

この「汎用エクスペリエンス・マップ」作成時には、多くの人の「意識」や「行動」を変えた出来事に着目しておくことが重要です。円高、人口の推移、株価などの具体的な数字や、世相、ブームなどの流行り廃り、ヒット商品、ヒット映画……のように、色々な視点で年表を作ります。

 

 

「欲求」に至る構造

「エクスペリエンス・マップ」が形になれば、そこからターゲット層が「欲求」に至る構造を読み解いていく必要があります。

 

東山氏は、読み取りの一例として2009年の60代男性による「ミニ耕運機ブーム」を取り上げました。この現象からは、高度成長期に労働が美徳だと考えられたことによって、定年退職後も「働きたい」という「欲求が刷り込まれて」いたと考えられます。

 

ほかにも、孫世代に「美味しいものを食べさせたい」という欲求。これは、2000年以降に産地偽装問題など、「食の問題」が浮上してきたことによるものだと分析できます。「働く習慣があり、孫に安全な食を提供したい」という欲求から、多少のコストは厭わないのではないか、と東山氏はまとめました。

 

「これが完璧な仮説になっているかはわかりませんが、一通りのロジックとして成立していると考えています」と東山氏。さらに発想を転がしていくことで、他の企業も気付いていない新たな市場のチャンスに気づけるかもしれない、と続けました。

 

 

「体験の輪廻(流行の再来)」という考え方もあります。ベーゴマや、それを基にしたベイブレードなど、形を新しくしながらも再度流行するというパターンを分析すると、「このブームも再来するのではないか」といった仮説を立てられるようになります。

 

「クリスマスの過ごし方」のような、その時々によって「価値観が転換」していく事例も存在。企業のキャンペーンによってお金を消費して過ごした時代や、家でくつろぐブームが起きた時代など、価値観が変わる瞬間に注目して年表を読み取ることも重要なのだとか。

 

作品のリメイクなどは、オリジナルを当初買った人も、買えなかった人も、最新技術で製作された商品を見たときに、財布の紐が緩みやすくなります。東山氏はこれを「欲求の回帰」と呼んでいるそうです。

 

これらの事例にあるキーワード「欲求の刷り込み」、「体験の輪廻」、「価値観の転換」、「欲求の回帰」といった面に注目すると、事実の中から仮説が浮かび上がりやすいとのことでした。

 

東山氏は実際に音楽市場の製品開発に利用した「エクスペリエンス・マップ」を紹介。コナミの製品が音楽ゲーム市場を席捲し現在に至っていること、市場にコアユーザー層が増加していること、低年齢からカジュアルな音楽ゲームに親しんだ層が成長し、次のステップとなるタイトルがないこと、などに着目。中高生をターゲットにした音楽ゲームの開発に至りました。

 

結果、中高生に人気が出やすいスタイリッシュな筐体デザイン、より親しんでいる楽曲ラインナップや簡単操作で遊びやすくするアイデアによって、ターゲット層に刺さる製品となりました。

 

 

最後に、「エクスペリエンス・マップ」をクロス利用する活用例を紹介。作った年表が増えれば増えるほど新たな発見につながり、知見になっていくのだと語りました。

 

▲次回、DDC Vol.7は6月26日(水)に開催予定。詳細はこちらより

 

 

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